―八―　太田塁 　同じ、か。恋人いない歴イコール年齢。 　何度スケッチブックにあの瞳を描いてみた事か。もう面倒になって、顔は描かずに目だけを描いていたのだが、一向に再現出来ないでいる。 　色をつけてみたらどうかと、色鉛筆で彩色してみたのだが、雪女の目のような、妖怪のような目になってしまって、すぐに消した。そもそも、本当に彼女の瞳は、様相を変えるのか。俺の思い違いではないのか。想像の産物ではないのか。 　来週末、サークルでバーベキューをする事になった。学内の倉庫から部室に、バーベキューセットを運んだ。 「女の子にこんな重い物を持たせられない」と至は両手一杯の荷物を持ったが、それは拓美ちゃんに掛けられた言葉だと思った俺は「矢部君、これ持って」と折り畳み椅子を二つ、手渡した。 「塁！」 　後ろから口うるさい小姑みたいな智樹の声が響く。 「俺が持つからいいよ」 　智樹はそう言って矢部君の手から椅子を取ろうとし、矢部君は何故か「ヒャッ」と逃げ腰で手を引っ込めた。椅子が手から滑り落ち、派手な音を立てる。 　智樹は女に優しい。男にも勿論優しいのだが、イケメンが手伝ってか女の子に優しいと言うイメージがある。 　ついでに言うと、サークル内では拓美ちゃんよりも矢部君に、何故か優しい。俺が矢部君をからかうと必ず、智樹がフォローに入る。気に入らない。何が気に入らないのか、自分で納得するのも難しい。 　レンタカーは至が借りてくる事になった。親分肌は仕事が多い。 「助手席は拓美ちゃんな」 　そこは満場一致で運転手のワガママを訊いてやる事にした。 　俺は矢部君の瞳を覗こうと思う。描いても描いても上手く描けない、あの瞳を。隣に座ってじっくり見てやる。だからこそ、智樹が後部座席の真ん中に座ったら俺は全力で智樹を引き摺り下ろす。矢部君は俺の隣だ。