18 お土産の包装紙 温泉街のお土産屋さんに寄った。 私は職場の同僚にお土産を買おうかと思ったが、リンとの関係がバレるのがいやだったのでやめた。 思いつくのは中田さんぐらいだった。私、友達少ないなぁ。 甘い物は好きそうだったので、4つ入りの温泉まんじゅうを買った。 3連休で明日も休みなので、明日渡せるだろう。 リンもいくつかお土産を買ったらしく、ビニール袋を手に提げていた。 帰りの車の中で、煙草を吸いながら運転するニコチンヤクザが口を開いた。 「なぁ、俺ら、お互いの携帯番号も知らねぇよな」 そうだった。前は仕事中ずっと一緒に行動してたから特に不自由もなかったけれど、これからはそうもいかないかも知れない。 「そうだったね。今、紙に書いて渡そうか?」 「アナログかよっ。後でサービスエリアで休憩する時にでも教えろよ」 そう言うと、吹きこんでくる風に目を細めながら車を走らせた。 煙草を吸いながら車を運転する姿って素敵だ。煙草の匂いは嫌いだけど、少し顔を顰めながら運転するリンに見惚れた。折れた左腕が少し窓から出ている感じ、あの感じが凄く、いい。 視線に気づいたリンに「何だよ」と凄みのある顔をされて「や、やくざ」と怯えて見せた。 身体まで繋がった今、当たり前にそこに存在するような「幸せ」が少し怖く感じた。 自宅前までリンに送ってもらった。丁度夕日が眩しい時間だった。 部屋に入り、鞄の中身を全て片づけ、洗濯機を回した。楽しかった旅行はこれでおしまい。 中田さんにメールを送った。 『こんばんは。昨日今日で旅行に行って、お土産を買ってきたんだけど、明日届けに行っても良いかなぁ?賞味期限が短い物なので。もし不在だったらポストにでも入れておいていい?』 すぐに返信メールが戻ってきた。 『気を遣ってくれてありがとう。明日は1日家にいるから、良かったら寄って行ってください』 翌日、お昼過ぎに彼女の家を訪問した。 「これ、お土産。温泉まんじゅうなんだけど、嫌いじゃない?」 袋から取り出して手渡した。オレンジ色の包装紙が掛けられている。一瞬、彼女の動きが止まり、真顔になった。が、すぐに顔を緩めた。 「おまんじゅう大好きだよ、ありがとう。開けてもいい?」 プレゼントを開けるようにワクワクした顔をされたので「そんなアレでもないんだけど」と苦笑した。 「あ、4つ入りなんだね、良かった。おまんじゅうって10個入りとかが多いじゃない?食べきれなくってさー。いつも駄目にしちゃう」 「そう思って少な目にしておいたよ」 ありがとう、と言って彼女はキッチンのカウンターに箱を置いた。その少し奥に、同じようなオレンジ色の包装紙が見えた。伊香保? 「一緒に食べようよ、今緑茶淹れるから。そこ座ってて」 キッチンに入った彼女は、緑茶を持ってリビングに戻ってきた。 「あのさ」 少し改まった感じで彼女が話し掛けたので「何でしょう?」と返事をした。 「落合さんの下の名前って、美奈さんだっけ?」 「うん、そうだけど、何で?」 右手を忙しなく左右に動かし「なんでもないの」と言った。 「あれ、携帯にね、『落合さん』って登録してあるから、下の名前も入れたいなと思って。」 彼女は箱からおまんじゅうを取り出し、ひと口ほおばった。「おいしい」と言って頬を緩めた。 窓から入る控えめな秋の太陽が、彼女のアクセサリーに反射し、彼女自身が発光しているみたいに輝いた。 左の薬指に、光る物を見つけた。 「それ、指輪、もしかして?」 「ううん、違うの。彼ね、アメリカに出張する事になって、逢えないからって言ってこれをくれたの」 彼女の細く白い指に付けられた指輪には、小さな3色の光る石がお団子の様に並んで埋め込まれていた。 「可愛い指輪だねぇ」 「でしょ」 誇らしげに太陽光にかざしてみせた。本当に綺麗で、麗しの中田さんを更に引き立てていた。 |