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9 早朝の刑事

 翌朝、ラブホテルから1人で出て行くのはなかなか勇気が要った。
 周囲に人目が無い事を確認しようとドアの両サイドに目をやると、私の視線は固まった。
 右側に、高橋君が煙草を吸いながら立っていた。
 目が合うと、「よっ」と手をあげた。
「何してんの――」
「いや、1人じゃ出づれぇだろうと思ってな」
 どこまで気が回るんだよ、この出木杉君は。
 吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付ける。見ると、その携帯灰皿はパンパンに膨れ上がっていた。
「いつからいたの?」
「5時」
 軽く眩暈がした。朝の5時からラブホテルの前で張ってるって――アンタは刑事かっ。
「俺ん家、来るか?」
「ん、家で朝ご飯食べたいから、いいや」
「そっか」
 また煙草を取り出し、火を点けた。肺がん一直線。
「駅まで送るよ」
 駅、すぐそこだから。と思いつつも、好意は受け取っておこうと、彼の横に立って駅まで歩いた。

「よく眠れたか?」
「そりゃあんな巨大なベッドだもん、最高だったよ。寝返りしてもしても、ベッドの上だからね」
「俺はあそこで、お前と眠れない夜を過ごしたかったのにな」
 アホですかこの子はアホですか。そんな事を真顔で言うなんてアホですかっ。
 私はリンゴ飴みたいに真っ赤になった頬を、手のひらでパタパタと仰いだ。タイミング良く駅の改札まで辿り着いた。
「じゃぁね、私はこれで。ホテル代、ありがとね」
 険しい顔をしながらも少し頬が上気している高橋君の潤んだ様な目が、私の目を捉えて離さない。
「なぁ、キスも、駄目か?」
 惚れてる奴に、こんな視線を向けられて、キスしないで帰る方が不自然だろうに。
 彼の唇に、触れるだけの優しいキスをした。
 彼の頬がが少し、緩んだ。かわいい人。
「気を付けてな」
「ん、ありがと」
 手を振って別れた。

 あぁ、こんなんじゃ身体を許してしまうのも時間の問題ではないか。
 あんな目して見つめられたら絶対――我慢できそうにない。
 それじゃなくてもずーっとご無沙汰なのにぃ!!