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 泉は大輔に交際を断った。初めは「納得がいかない」と子供のように駄々をこねたが「こう君と付き合いたい」と言うとすんなり諦めた。
「何でもこう君に持って行かれるよなぁ。結局エースもこう君だしさ」
 男子バレー部のエースアタッカーは暫定的に浩輔らしい。が、完全実力主義の男子バレー部だから、いつ何どき、下克上があるかもしれない、と大輔は諦めずエースの座を狙うらしい。
 こんな大輔だから「俺はいつでも泉を狙っててやる」と言って、毎週水曜日は泉と一緒に下校し、昼ごはんも一緒に食べている。
 浩輔は、相変わらず困っている人がいると自分を差し置いてでも手を差し伸べているが、以前のように昼ご飯は五人で食べるようになったし、水曜の下校も三人で大槻駅まで帰っている。駅からは泉の家まで送ってくれるようになった。「携帯持ってないから、電話は出来ないし」と言いつつ、施設の公衆電話から、時々連絡を寄越すようになった。
 何よりの変化は、あの遠い次元から向けられる空虚な笑顔は、一切見せなくなった事だ。笑う時は思い切り、心から笑うようになった。泉はその事が一番嬉しかった。

 高校時代を四角く切り取ったこの数ヶ月で、浩輔は変わった。
 罪の意識は拭っても消え去る物ではない。持っていて重たく感じて当たり前だ。背負ったままでも、幸せになる道を探そう。
 今はすぐそばにいる、強く生きる泉を、幸せにしたい。泉の言う事は綺麗事だらけかもしれないけれど、綺麗ならそれを理想にすればいい。それを信じて生きていたい。
 離れて暮らす妹に、いつか笑顔で顔見せができるように、心から笑える人間になろう。
 生きていよう。何があっても。
 丸い命が溢れるこの世界で。

FIN.(あとがきあり)


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