39 志保



「その穴、俺が塞いでいく事は出来ないかな。時間が掛かってもいいから。ほら、砂時計みたいに、少しずつ、少しずつ、じわじわとその穴を埋めて行くから。」
鈴宮君はそう言って私を真直ぐに見つめた。
ここまで私を想ってくれる人がいるんだ。私の心はまだ、明良にある。それでもいい、時間が掛かっても、自分の方に傾いてくれればいい、そんな風に思ってくれている。少しずつでいい。時間が掛かってもいい。
「ありがとう。ほんと、ありがとう。」
明良の事はまだ当分忘れられない。しかし、明良とは今まで通りの付き合いを続けていてはいけないと思う。幸せな結婚。自分にはなかった「家族」を作る事。そんな些細な夢さえ、叶わないかも知れないのだから。力で押さえつけられ、情に絆される関係は断ち切らなければならない。それにはやはり、物理的な距離を置くという方法を取らざるを得ないのだ。
寂しい。温もりが欲しい。穴を埋めて欲しい。こんな子供の様な我が儘の全てを叶えようとしてくれる鈴宮君の言葉に、私の心は動かされた。彼となら、少しずつ現実を受け入れて行ける気がする。彼となら、寂しさを紛らわせて行ける気がする。彼となら、寂しさの穴埋めをした上に、幸せと言う土をかぶせる事が出来る気がする。そこに咲く花は、小振りでも力強く咲くと思う。



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