6 令二



「おはようさん、昨日はありがとう」
「あ、ううん。こちらこそご馳走様」
 昨晩、暗がりで目にした、背の高い男性を思い出した。白衣に袖を通す志保ちゃんの顔を、覗き込むようにして訊いた。
「すぐに迎えに来た人、あれって彼氏?」
 茶色がかった瞳が小刻みに左右した。昨日も見た、この表情。いつだったか――カフェで見たんだ。
「あぁ、見てたんだ。あれは彼氏。あの辺で待っててくれたみたい」
 狼狽える時の表情は、まるで少女の様なのに、すぐにいつものクールビューティに戻る。俺は何か、地雷を踏んでいるのか?
「へぇ、優しい彼氏だねぇ」
 俺は訝しげな表情を隠し切れないまま言った。
「ん」
 耳を赤くして照れながら頷く志保ちゃんは、恋する乙女の表情だった。

 中学1年からだ、と志保ちゃんは言っていたっけ。長いな。
 新潟にいる俺の彼女(その1)は付き合って5年。それでも途中で飽きが来て、色んな女の子にちょっかい出したっけ(それは今も同じか)。
 同じ人をそれだけ長く愛し続けられるってのは、何か理由があるんだろうか。

 施設。施設で育ったと、彼女は話してくれた。相手もそうなのかもしれない。寝食を共にする仲間だったら、長い付き合いになる事もあるのかもしれない。実家でグータラに育った俺にとっては、理解の範疇を越えている。

「でも鈴宮君だって、優しい彼氏なんでしょ?」
 急に俺に振られて驚いた。俺が優しい彼氏?そりゃまぁ。
「優しいよぉ、とても優しいよぉ。3人に平等に優しいんだから」
「器用なんだね。鈴宮君は」
 感情という物を全く備えない口ぶりでそう言って、白く長い指でカタカタとパソコンのキーを押す。心にもない言葉を掛けられたようで、複雑だった。
「3人と同時に付き合っていくには色々苦労もあるんですよ」
「じゃぁ1人に絞ればいい」
 カタカタ。目も合わさずバッサリと斬られてしまった。何の反論もできない。



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