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4.
 開け放った窓から、冷たい風が草の匂いを運んで来た。

 農機具庫を挟んで隣に、総司の同級生の家がある。洗濯物を干していると、お嫁さんらしき人が、突っかけを履いて縁側から外に出て来た。夏の終わりの太陽に、目を顰めている。
「今日も暑いですね」
 陽の方向に手の平をかざしながら、こちらへ歩いて来た。私と、同じ位の年齢だろうか。膨れたお腹を庇う様に、もう片手で支えている。
「総司のお嫁さん?」
「はい」
 総司を呼び捨てる彼女に、良い印象は持てなかったが、鼻筋の通った色白の美人だった。
「じゃあ東京から?」
「はい」
 私は一度止めた洗濯物干しの手を再開させて、目線を外した。
「私は総司の同級生。旦那もそうなんだけどね」
あぁ、やっぱり同じ歳か。
「お名前は?」
「エリカです」
 彼女は顔を背けた。クスリと笑われたような気がした。
「都会っぽいお名前。私は岩谷陽子です。宜しくね」
「あ、はい」
 陽子というその人は、お腹をさすりながら「あぁ、暑い」と一人呟き、部屋の中に戻って行った。自己紹介がしたかったのか。何処か棘のある感じのする女性だった。

 洗濯物を干し終え、少し畑の方へ出た。眼前には大きな山が聳えている。
 冬になると豪雪地帯であるこの辺りは、温暖化の昨今でもかなりの積雪量があるという。この裏山は、冬場は勿論、春でも残雪が多く、入山が禁止となっている。遭難者も多いようだ。
 だが夏の太陽を背に受けた山は穏やかな物で、その稜線を上から下に目で追って行くと、段々と家屋の赤や青の屋根が増えて行くのが見える。
 洗濯の籠を持ち、部屋に入った。陽子という女も旦那さんも、総司の同級生か。この辺りには、都会に出て行く人間はあまりいないのだろうか。


 二十二時を回った頃、総司が帰宅した。義母は既に床に就いている。
 生姜焼きを食べながら総司は私を見つめていた。あまりにもその視線が強くて、私は下を向いた。
「エリカ、大丈夫か?」
 子宮外妊娠の事だろう。陽子と言うあの女の腹を見た時に、形容し難い思いに駆られた事は黙っておいた。
「もう、どうにもならない事だから、大丈夫」
「そうじゃなくて」
 総司は味噌汁に口を付けると、長い指を鉤型に折り曲げ、私を差した。
「友達もいないだろ。隣に住んでる陽子は同じ歳だし、旦那の健もだ。何かあったら相談に乗ってくれる」
 彼はそう言った。が、私は彼女に良い印象を受けなかった。
「うん、今日話しかけられた。気さくな方だね」
 私は口を吐いて出る虚言に自ら驚いた。
「他にも俺の同級生は何故だか地元にいる奴が多いんだ。工務店にも一人、女の子がいるしな」
 病院に行く時の、あの女が思い浮かんだ。総司の肩を小突く女。
「心配する事はない。友達なら沢山できる。俺も紹介するからさ」
 ドレッシングが掛かったキャベツを混ぜながら、思いついたように顔を上げた。
「そうだ、ここに来てから一度も一緒に風呂に入ってない。母ちゃんも寝てるし、久し振りに入るか」
 味噌汁を飲み干すと「ご馳走様」と言って食器を重ね、流しに運んだ。私はそれを洗う。
 久々の二人での入浴。嬉しかった。考えるだけで体が火照った。


 パジャマと下着、洗い用のタオルを用意し、それを手に浴室へ入った。
 先に入っていた総司は「俺が先に洗ってもらおうかな」と椅子に座っている。
 私は彼の身体をざっとシャワーで流し、シャンプーで髪を洗った。短い髪が、しなやかに折れる。
 鏡越しに目が合うと、どちらからともなく微笑み合う。幸せな瞬間だ。
 それからボディソープを泡立てて、身体の至る所に泡を擦り付けた。彼のソレの部分は念入りに。
 まだ若い総司は数回扱いただけで身体を震わせ、後ろを振り向き「凄くいいよ、エリカ」と囁いた。私は彼の声だけで濡れるてしまう。
 暫くして鏡越しの彼は苦しそうな表情をしたと思ったら「攻守交代」と言って私を椅子に座らせた。
 私は既に濡れていたが、泡立つ石鹸でうまくカモフラージュ出来だだろう。しかし、彼は石鹸のついた指で、私の蕾を左右に刺激したり、空いた片手で胸の先端にある突起を抓み始めた。石鹸とは違う、ドロリとした液体が、私の襞の間から流れ出した。
「もうこんなにしちゃって」
 意地悪そうに笑ってそういう総司は、私の足を存分に広げ、間に顔をうずめた。
「あ、んっ」
 あまりの快感に声が出た。
「どんどん出て来るよ。これじゃヌルヌルで入れられない」
 そう言うと、傍にあったタオルで私の局部を少し拭き、私に跪かせると、先端の丸まった熱い棒で私の穴を探し、そのまま、するりと飲み込んた。
「んっ。あはっ」
 私は声にならない声を出し、総司は後ろから単調に突き上げた。突きながらも私の突起をコリコリと動かし、私の頭はとろけそうでおかしくなりそうだった。
 彼の突く早さが早くなって来ると、私の突起の付近にも刺激が加わり、私は果てる寸前だった。彼も最後の一踏ん張りで、ぴちゃぴちゃ音浴室内に響かせながら、最後は腰を震わせ、果てた。

「エリカの身体は最高だ」恥ずかしげもなく言う彼の言葉に私は俯き、微笑んだ。
二人重なり浴槽に入っていると、後ろから抱きしめられる。
「エリカに何の不自由もない生活を与えたいんだ。俺に出来る事があったら遠慮なく言うんだよ」
 私は体の後ろから回っている彼の腕を取り、頬を寄せた。
 こんな幸せがあって良いんだろうか。お腹の胎児の事は残念だけど、総司は私だけを見ていてくれる。義母は都会から来た世間知らずの私に優しく接してくれる。これ以上の幸せはない。