28 ジョーカー



 タキを夕飯に誘った。夏も終わりに近づいていた。久しぶりに馴染みのラーメン屋でラーメンを食べ、それからカフェでお茶をした。

 「お土産、中身見てもいい?」
 「いいよ、大したもんじゃないけど」
 白い紙袋をがさごそと開け、「あ、チョコだ」とテーブルに置く。さらに下にある箱を取り出す。
 「はぁ?何これっ、何?」
 「何ってトランプ」
 ありとあらゆる男性が、男性器をさらけ出してドヤ顔で写っている写真が、トランプになっている。残念なお土産だ。
 「だって食べ物以外に良いもの無くてさぁ」
 「だからってこのトランプかよっ。まさかレイちゃんにはこんなものあげてないだろうな?」
 「こんなものとはなんだぁっ。あげてないから大丈夫。木製の食器を郵送しておいたよ」
 料理をするレイちゃんが懐かしい。もう暫く会っていない。メールは頻繁にやり取りしているのだが。

 「その後、夫婦仲は良くなったの?」
 コーヒーにドバドバと砂糖を投入するタキ。苦いコーヒーは苦手らしい。溶けるのかなぁと心配になる。
 「良くなってないよ。それと、これは言って無かったよね。サトルさんとセックスしました」
 口をあんぐりあけたまま私の顔を凝視する。マーライオンみたい。
 「あんた――」
 言った後、諦めたような顔をしてマドラーで撹拌を始めた。
 「まぁそうなるとは思ってたよ。あんたがしたいようにしたらいいよ。このまま仮面夫婦を続けるもよし、離婚してさっぱりするもよし、私はあんたの味方でいるから」
 顔を上げたタキと目を合わせる。
 「お前、超いい奴」
 右手を差し出して「シェイクハンド」と言うと、タキは笑ってその手を握った。
 「私は元鞘になったから」
 「え、どこの鞘?多すぎて分からないんですけど」
 「アンタと違って2つしかないよっ。」
 中距離恋愛をしていた彼が、横浜に押しかけてきたらしい。丁度、前の彼との別れ話が持ち上がっていた事もあって、そのまま何となく同棲が始まった、という事だ。
 「あ、でも基本的にはうちに住ませてるというよりは、寄らせてる、だから、昼間は出て行ってもらってる。だから土日は遊びに来て大丈夫だから」
 夜だけの同棲。私も同じような状況だ。「夜しか会えない」という気持ちから、きっと二人はラブラブしてやがるんだろう。くっそー。



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