1 志保



 薄暗く、1年中埃っぽく、湿り気を帯びている物置部屋。新年会、お花見、子供の日、プール、お月見、ハロウィン、クリスマス。1年のイベントに使う道具の数々が、あちこちに散乱している。

「心臓が左側だけにある理由、知ってる?」
 明良(あきら)が私の目じっと見つめながら言った。
「知らない」
 明良はその細くしなやかな両腕を私へ伸ばし、抱き寄せた。
「こうすると、右と左、両方に鼓動を感じるだろ。足りない分を補うように、神様が片方にしかつけなかったんだよ。」

 カーテンの隙間から見える月は、冬の澄んだ空気のせいで、一際輝いて見えた。
「俺が、志保の右の心臓になる。俺が志保を一生大切にしていくから。絶対に守るから。」
 そう言って、中学1年の冬、私と明良は初めて繋がった。愛し合った。



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