12 明良



バーベキューだって?俺は参加する気はなかった。今までの俺なら参加しなかっただろう。
貴重な休日を、何だって彼女の会社の同僚と、気を遣いながら過ごさないといけないんだ。そう思っただろう。
しかし志保から話を持ちかけられ、考えた。
あの、鈴宮とか言ったか?あいつがどういう了見で俺の志保に手出しをしてるのか、確認できる良い機会だ。なので俺は了承した。

俺と志保は一心同体みたいな物だ。どちらかが欠けたら生きていけない。その間には、何人たりとも挟む事は許さない。
俺と同じ境遇の幼い志保を、初めは「可哀想だ」と思って、頻繁に声を掛けていた。
茶色い瞳で俺の目をじっと見て、「一緒にいてくれる?」なんて言われたら、小学生のガキだった俺だってたまったもんじゃない。
小学生以下は同じ部屋で寝ていたから、俺は必ず志保の隣を陣取って、手を繋いで寝た。先生達はそれを見て「実の兄妹みたいだね」と言ったものだ。
俺はただ、大好きな志保と少しでも離れたくなかったから手を繋いでいたのだった。それに、先生は知らない。

志保は入所して暫く、狸寝入りで先生を欺き、夜中に母親を求めてしくしくと泣いていたのだ。
俺だって同じ気分になった事がある。こんな奴を放っておけなかった。
大学までは施設から通っていたし、女子大だったから、あまり他の男に誑し込まれる事に心配はなかった。
いつだったか、志保に告白をした男がいた。志保はその場で断ったらしいが、相手は諦めず再度告白をしたらしい。俺はブチ切れて、そいつを殴りに行った。それ以来、奴は志保に近づかなくなった。
時間の経過と共に、志保が女友達と一緒にいる事ですら好ましく思えなくなっている自分がいた。
今思えば少し、やり過ぎだったと思う。

本当は今だって、志保には家にいて欲しい。専業主婦として俺の帰りを待っていて欲しい。
しかし俺の稼ぎはお世辞にも多くない。
それに、施設史上ナンバーワンと言われた秀才の志保が、大学まで卒業して仕事に就かない訳がない。そこは俺も譲った。

だが、職場での行動を俺が監視できる訳も無く、鈴ナンタラという男と一緒にいる所を目撃してしまった。
きっと志保とは何の関係もない、ただの同僚なんだと理解している。
だが心配で心配で、志保が俺から離れてしまうのではないかと思うと心配で、気づくと彼女に暴力を振るい、そして泣きながら謝罪し、縋る俺がいる。そして俺を慰めてくれる志保が隣にいる。

いびつな関係だ。そう思われても仕方がない。それでも俺は、志保を俺に縛り付けておきたいんだ。



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